「侵入されたとき」の正しい行動とは

侵入後行動

第12回・侵入後行動

「侵入されたとき」の正しい行動とは

―抵抗しない・追わない・急な動きをしない―

第6回から第11回にかけて、「侵入させない」ための対策を解説してきました。しかし正直に申し上げます。どれだけ設備を整え、習慣を変えても、万一の侵入を100%防ぐことはできません。

だからこそ今回は、「侵入されてしまったとき、どう行動するか」を取り上げます。これは日本の防犯教育ではほとんど語られてこなかったテーマですが、米国の警察・大学の安全部門では標準的な知識として普及しています。

1.日本の防犯教育に「侵入後の行動」が少ない理由

日本の防犯対策は長い間、「侵入させない」ことに集中してきました。補助錠・防犯フィルム・センサーライト……これらはすべて「犯人を家に入れないための対策」です。

しかし近年の闇バイト型強盗は、在宅中でも強引に押し入る犯罪です。「侵入させない」だけでなく、「侵入されたときどう命を守るか」まで知っておく必要があります。

【日本と米国の防犯教育の違い】

 

日本の主流:侵入を防ぐ設備・習慣の整備に集中

→ 補助錠・防犯フィルム・センサーライト・施錠習慣

 

米国の主流:侵入防止 + 侵入後の行動まで体系化

→ 「Do not resist(抵抗しない)」「Don’t make sudden moves(急な動きをしない)」が警察の公式広報に明記

 

米国では、強盗・侵入時の対応が警察・大学の安全部門の標準知識として普及しています。日本でもこの視点を持つことが、これからの防犯には不可欠です。

2.米国警察が明言する「侵入時の5原則」


米国の複数の警察署・大学安全部門(DPS)が公式に発信している強盗・侵入時の行動原則を、英語原文と日本語訳でご紹介します。

【原則①】抵抗しない

 

“Remain calm and do not resist.”

「落ち着いて、抵抗しない。」

(USC Department of Public Safety / Hawaii Police Department)

 

家庭向け言い換え:とにかく抵抗しない。命を守ることだけを考える。

【原則②】急な動きをしない

 

“Don’t make any quick or unexpected movements.”

「急な動作・予想外の動きをしない。」

(USC Department of Public Safety)

 

家庭向け言い換え:手を動かすときは一言伝えてから。「電話します」など声に出す。

【原則③】指示には従うが、余計なことはしない

 

“Follow the robber’s directions, but do not offer more than what they ask for.”

「指示には従うが、求められた以上のことはしない。」

(USC Department of Public Safety)

 

家庭向け言い換え:「言われたことだけ」を落ち着いてやる。余計な情報を話さない。

【原則④】命は金品と引き換えにならない

 

“Money and belongings can be replaced, your life cannot.”

「金品は取り戻せても、命は戻らない。」

(Baltimore Police Department)

 

“It’s better to lose your money than your life.”

「お金を失っても、命を失うよりはいい。」

(Hawaii Police Department)

 

家庭向け言い換え:物は渡す。命が最優先。この考えを家族で共有しておく。

【原則⑤】追いかけない

 

“Don’t chase or follow the robber.”

「犯人を追いかけない。」

(Baltimore Police Department)

 

家庭向け言い換え:犯人が逃げても追わない。安全確保後すぐに110番する。

3.外務省・在外公館も同じ立場をとっている

日本の外務省・在外公館が海外生活者向けに作成した「安全の手引き」にも、強盗・侵入時の行動として同様の内容が明記されています。

【外務省「安全の手引き」より】

 

・抵抗は極めて危険

・生命・身体の安全を第一とする

・急な動作をしない(犯人の誤解を招く)

・安全確保後に警察・家族に連絡する

 

これは海外生活者向けの指針ですが、在宅強盗が増えている日本の現状にも完全に当てはまる考え方です。

4.警備会社は「警察到着までの空白」を埋める存在

「どんなに設備を固めても、警備会社や警察がすぐに来てくれるわけではない」と思っている方もいるかもしれません。

確かに、警察の到着には時間がかかります。だからこそ、警備会社との契約は「警察到着までの空白を埋める手段」として有効です。

【防犯の4層構造】

 

防犯設備:侵入を遅らせる(補助錠・防犯フィルム・センサーライト)

家族ルール:命を守る(非抵抗・急な動きをしない・指示に従う)

警備会社:異常の早期検知・通報・駆けつけ確認で警察到着までをサポート

警察:最終的な公権力対応・捜査・逮捕

 

警備会社は警察の代わりではありません。「侵入を防ぐ設備」と「命を守る行動」を組み合わせた上で、さらに安心を加える「補強手段」です。

5.「侵入後の行動」を家族で事前に共有しておく

侵入強盗に遭遇したとき、パニックになるのは当然です。だからこそ、「侵入されたらどうするか」を事前に家族で話し合っておくことが重要です。有事の判断は、平時に決めておかなければできません。

タイミング 行動 ポイント
侵入直後 抵抗しない・落ち着く 命の安全を最優先にする
対峙中 急な動きをしない・指示に従う 余計なことは話さない・しない
要求された場合 求められたものだけ渡す 「物は渡す」の判断を家族で共有
犯人が去った後 安全確認→110番→家族連絡 追いかけない。すぐ通報する
負傷者がいる場合 119番も同時に 警察と救急、両方に連絡する

【家族で事前に決めておくこと】

 

「物は渡す・命が最優先」という方針を全員で共有する

誰が110番するか役割を決めておく

③ 高齢の家族には「抵抗しなくていい」と繰り返し伝える

万一の集合場所・逃げ場を決めておく(次回詳しく解説します)

6.被害後のケアも大切

侵入強盗の被害に遭った後は、心理的なショックが大きく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になることも珍しくありません。被害後の対応も整理しておきましょう。

【被害直後の対応チェック】

 

① 安全確認後すぐに110番(負傷者がいれば119番も)

② 現場をなるべく触らない(証拠保全)

③ 家族・信頼できる人に連絡する

④ 警察庁の「犯罪被害者支援」窓口に相談する

⑤ 心理的なショックを感じたら、早めに専門家に相談する

 

「自分がもっとしっかり対応できれば」と自責しないことが大切です。侵入強盗の被害は、あなたのせいではありません。

まとめ:今日からできること

【今日の確認チェック】

 

□ 「侵入されたら抵抗しない・命優先」を家族全員で共有しましたか?

□ 「物は渡す」という判断を、家族間で事前に話し合いましたか?

□ 急な動きをしない・追いかけないことを覚えましたか?

□ 被害後の110番・119番・家族連絡の手順を確認しましたか?

□ 高齢の家族に「抵抗しなくていい」と伝えましたか?

次回は「欧米では『侵入後の行動』が常識——海外の防犯対策から日本人が学べること」をお届けします。Safe Room(防犯室)という考え方と、欧米スタンダードの「命を守る」防犯の発想を詳しく解説します。

参考・引用

※1 USC Department of Public Safety(米国南カリフォルニア大学安全部門)防犯広報

※2 Hawaii Police Department 強盗対策広報

※3 Baltimore Police Department 防犯広報

※4 外務省「海外安全情報・安全の手引き」各国版

※5 警察庁「犯罪被害者支援」https://www.npa.go.jp/higaisya/

※6 警察庁「住まいる防犯110番」https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/bouhan/

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